海外ICT事情 ICT Overseas Topics

 

ご寄稿者への感想、意見、感動などございましたら、左のコメントボタンよりご記入いただければ幸いです。


ドバイ、警察はロボットに:「ロボコップ」の世界が現実に

佐藤 仁

 

ついにロボコップの時代へ

 

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでは自動運転のバスの走行試験や、自動運転車だけでなく、「空飛ぶタクシー」と呼ばれている、パイロット不在で、自動運転で飛行する1人から数人乗りの飛行機の導入にも積極的だ。

 

そして、ドバイ警察は20175月に、警察ロボットを正式に採用することを発表。ドバイ警察のリリースのタイトルは「ドバイ警察、UAE初の"ロボコップ"を採用(Dubai Police recruit UAE's first 'Robocop')」だった。ついにロボコップの時代がやってきた。

 

ドバイのロボット警察の初仕事は同国で開催されていたセキュリティカンファランス「Gulf Information and Security Expo」での会場案内だった。ロボコップの胸にはパネルが搭載されており、アラビア語、英語に対応した地図が表示されていた。将来はロシア語、スペイン語、中国語、フランス語などにも対応するようだ。またロボコップに搭載されたカメラでは人間の顔認識も可能で、不審な人物を特定すると、その動画が警察に送信される。さらに、交通違反の罰金の取締りも行い、ロボコップ経由で罰金の支払いができる。2020年までにはドバイのあらゆる所にロボコップを配置していくことを予定している。

 

2030年までに警察業務の25%をロボットが実施

 

ロボコップは、身長170cm、体重100kg、バッテリーでの持続時間は8時間。ロボットなのでバッテリーを充電すれば24時間稼働は可能で、ドバイ警察も「ロボットなら病気で休むことも、産休をとることもなく24時間働いてくれる」とコメントしている。2030年までにドバイでは、警察業務の25%はロボットに置き換える予定だそうだ。人件費削減にもつながる。

 

ロボットは3D業務といわれる「単調:dull」、「汚い:dirty」、「危険:dangerous」の任務に適していることから、軍事面や警察での利活用が期待されている。特に人間の目の行き届かないところまでロボットなら監視できることから、監視や偵察のような業務は人間よりも適している。また危険物の処理を実施する際にも、人間の場合は、危険物処理を行う人の人命にかかわるが、ロボットにはその心配がないので、危険物処理の業務も人間よりもロボットは適している。

 

ドバイ警察によると、2年後には犯罪捜査時に人間が操作する時速80kmで走る、体長3メートルのロボコップを導入する計画も明らかにしている。3メートルのロボットに追われるのは逃亡する犯人にとっても脅威だろう。

 

「ドローン搭載自動運転パトカー」も

 

ドバイ警察の取組みはロボコップだけではない。20176月に、ドローン搭載の自動運転パトカー「O-R3」を導入することを明らかにしている。完全自動運転なので、人は乗らないので、車体は全長120cm、幅60cmと小さい。そのため小回りも効くし、細い道にも入って行くことができる。パトロールを目的としており、車体には高精細カメラ、赤外線画像装置、レーザースキャナー、光検出測定装置などを搭載しており、100メートル先の物体も認識できる。顔認識も可能で、指名手配の犯人を検知した時の追跡と通知も可能。さらに街の中にある不審物や持ち主不明の荷物などを検知すると、その情報を警察のコントロールルームに送ることもできる。

 

 自動運転のため、24時間365日休まずにパトロールが可能。容疑者を検知したら、追跡もできるが、自動車では入ることができない場所に容疑者が逃走した場合には、パトカーからドローンが出てきて、容疑者を追跡していく。自動運転パトカーは、パトロール目的で開発されているため、時速15kmと遅い。そのため、容疑者が自動車やバイクで逃走した場合はドローンでの空からの追跡を行うか、監視しているコントロールルームに通知が行き、実際の人間の警察官がパトカーで追跡することになる。

 

ドバイ警察では、ドローン搭載自動運転パトカーを2020年までには100台導入する予定。ドバイ警察のAbdullah Khalifa Al Marri氏は「ロボットや自動運転パトカーなどを増強し、警察官を配置しないでも街を平和にしていく」と述べている。

 

「空飛ぶバイク」で交通渋滞監視とレスキュー

 

さらに、ドバイ警察では2020年までにホバーバイクを導入することを201710月に明らかにしている。ホバーバイクとは、いわゆる「空飛ぶバイク」のことで、時速70km1人乗りで上空5メートルの高さまで25分間の飛行が可能。

 

ホバーバイクにはカメラも搭載されており、上空から360度撮影することができる。撮影された映像は監視センターに直接送信されるそうだ。ホバーバイクはまずは上空からの交通渋滞の監視と緊急時のレスキュー目的として活用することを想定しており、ホバーバイクでの犯人追跡まではしない。

 

ロボット導入で変わる社会と新たな課題

 

現在の世界規模でのロボットや自動運転技術の発展を見ていると、ドバイ警察が取り組んでいるロボコップや自動運転パトカーはいずれ世界各国の警察でも導入が進むだろう。ロボットに代替できる業務はロボコップが担当するようになり、人間の警察官は人間にしか出来ない業務に集中できるようになる。従来の人間の警察官ではできなかったような業務もロボコップなら文句も言わずに24時間働いてくれる。

 

ロボットや自動運転の発達によって、人間の生活や仕事は大きく変わる。利便性も向上し、効率化やコスト削減が推進されるだろう。だが一方で、ロボットは機械だ。突然、故障するかもしれないし、悪意ある者に乗っ取られて、誤った行動をする可能性もある。例えば本来、市民を守らなくてはならないロボコップが、人間を攻撃してくることも想定される。

 

さらにドバイの経済はバングラディッシュやフィリピンなどから来る多くの移民労働者によって支えられている。彼らが現在、タクシーの運転手や、掃除、工事現場での作業、家政婦などをして働いている。それらの仕事の多くはロボットによって代替される可能性が高い。急速なロボットの進化は移民労働者の仕事を奪うことにもなる。仕事を失った若者や移民らは犯罪に走る傾向が強い。これはドバイだけの話ではなく、世界共通の課題だ。人間が罪を犯して、その人間をロボコップが追跡し、ロボコップに逮捕されるようになるという皮肉な社会がやってくるかもしれない。


競争激しいインドネシアのバイクタクシー市場

                                  情報通信総合研究所副主任研究員 佐藤 仁

 

東南アジアの大都市の道路はいつも大渋滞だ。そのため昔から、バイクタクシーは一般的で、現在でも多く存在している。インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムでも路上で客待ちをし、値段交渉をして、客をバイクの後ろに乗せて目的地に運んでいる。

副業でバイクタクシーをやっている人も多い。バイクタクシーは現地人にとっては重要な足であり、日常に根付いた移動手段だ。車で移動したら渋滞で何時間もかかるような道も、バイクなら早く到着することが可能だ。

特に電車がほとんど整備されていないインドネシアの首都ジャカルタの交通渋滞は凄い。道路は通勤時だけでなく常に渋滞している。

一方通行の道路も多く、事故などで封鎖されていることもあり、さらに渋滞を加速させている。

ジャカルタでは、昔からOjek(オジェック)と呼ばれるバイクタクシーが一般的だ。現在でも「Ojek乗り場」のような「バイクの溜まり場」が道路沿いにあり、そこでバイクタクシーの運転手に行き先を告げて乗る。

 

スマホで呼べるバイクタクシーが人気

 

ところが、この1年くらいで現地のバイクタクシー事情が大きく変わった。町中に緑色のジャンパーとヘルメットを着用した「GO-JEK」と「Grab」社のバイクがやたらと目立つようになった。これが新しいバイクタクシー運転手のスタイルで、インドネシアのバイクタクシーは、ほぼGO-JEKGrab2強状態になった。GO-JEKは現地企業だが、Grabはインドネシアだけでなく東南アジア諸国で事業展開しており、201412月にはソフトバンクも出資している。ホンダも201612月に同社とバイクシェアリングで協業することを発表した。GO-JEKGrabは配車アプリUberのバイク版のようなもので、スマホで誰もが気軽に呼べるバイクタクシーだ。このICTボランティア会の会報読者のうち、どのくらいの人がタクシーをスマホで呼ぶ人がいるか不明だが、現在ではタクシーは流しで捕えたり、電話で予約をするよりもスマホのアプリで簡単に呼んで、決済もスムーズにできるのだ。20174月にはGrabは地元のKuboというeコマースプラットフォーム企業を買収、これによってさらに決済機能の利便性が向上することが期待されている。

利用者は今までのようにバイクタクシー乗り場に行って交渉する必要はない。スマホのアプリで、近くにいるバイクタクシーを見つけて、必要なところまで来てもらい、目的地まで行く。両社とも料金も明瞭で、アプリでの支払いもできる。バイクの運転手も常にスマホを持って、客からの呼び出しが来ないかチェックしている。以前のバイクタクシーよりもかなり効率的になった。インドネシアではスマホがかなり普及しており、ジャカルタのような都会では学生から大人までほぼ全ての人が所有している。また、バイクタクシー自体は昔から慣れ親しんでいるサービスなので、新たなビジネスモデルもあっという間に広がっていった。

バイクタクシーの運転手をしていた人たちが、そのままGO-JEKGrabで運転手をやっていることが多いようだが、サービスもかなりよくなった。従来のように、外国人だからといって不透明な料金面を請求されることはなく、安心して利用できる。クレジットでの支払いも可能で利便性も向上した。また、従来のバイクでは誰が利用したかわからないヘルメットを、そのまま着装せざるを得なかったが、現在ではマスクと頭にかぶるネットを提供してくれる。運転手の緑色のジャンパーも清潔だ。

現在、ジャカルタではGO-JEKの方が優勢だ。その人気の理由は、バイクタクシー以外にも荷物の配達、買い物の手伝い、食事のデリバリーなども行ってくれるからである。インドネシア人はあまり家庭で料理を作らないため、屋台やレストランで食事をしたり、デリバリー(出前)で済ますことが多い。GO-JEKは客から希望の食事を聞いて買ってきて、それらをバイクで自宅やオフィスなどにも届けてくれるので評判がいい。また買い物の手伝いも、客が頼んだ商品をスーパーや市場などに行って購入し、家まで運んでくれるきめ細かい親切さが受けている。

 

バイクは持つより呼ぶ

 

多くの人がスマホでバイクタクシーを利用するようになり、バイクを所有する人が減少している。かつては、バイクを所有することは一種のステータスシンボルのようなところがあって、無理をしても月賦でバイクを購入していた。現在でもバイクは生活必需品という人が多い。だが最近では、バイクを購入するよりも自動車を購入する傾向が増加している。また自分のバイクは渋滞、盗難の心配、駐車場の問題、帰りにお酒が飲めないなどの問題があるので、通勤や通学時にはバスやバイクタクシーを利用するようになった。

バイクタクシーの増加によりバイクの個人所有が減っていることは、バイクメーカーのホンダがいつまでもバイク製造・販売だけに頼れないことを意味している。そこで、Grabとの提携など新ビジネスへの対応は非常に重要になってくる。ホンダだけでなく、日本のバイクメーカーは東南アジアでは大人気だから、これから、他メーカーも何らかの形で追随してくる可能性が高い。

ホンダは201612月にGrabと提携する際のプレスリリースの中では以下のように述べている。「近年、『シェアリングエコノミー』と呼ばれるモノの共同利用活動がグローバルレベルで拡大していることに伴い、東南アジアの二輪車市場においても、「所有」から「共同利用」へと使用形態が広がる兆しが見えています。この環境下で、グラブ社がモビリティシェアリングビジネスで培ってきた知見と、Hondaが持つ二輪車のラインアップ、販売網やサービスなどのリソースを活用し、東南アジアでの試験的な取り組みを通して、シェアリング領域での新しい移動サービスの実現を目指します。」

もはやバイクは所有する時代ではなく、必要な時に呼び出すものになったことをバイクメーカー自身も認めていることがわかる。

 

日本人には車の移動がお勧め

 

最後に、インドネシアに慣れていない日本人がバイクタクシーを利用することはお勧めしない。ICTボランティア会会報の読者は海外に慣れている人が多いかもしれないが危険だ。バイクタクシーの運転手で英語を話せる人はほとんどいないこともあるが、同地の道はまだ整備されていないし、砂埃も酷いし、下水道が完備されていない場所やゴミが放置されていることも多く臭いがきつい。バイクだから当然冷房もないので、乗っていると非常に疲れる。さらに、雨期には突然スコールが降ってきてびしょ濡れになることもある。移動中に大雨が降ってきた時は運転手と一緒に雨宿りすることにもなるし、雨で運転手が迎えに来れないこともある。軽い雨の時には雨合羽を貸してくれるが、着用しての乗車は危険だ。また、とにかく渋滞を避けようと前へ前へと進もうとするので、他のバイクの運転手とトラブルを起こしたり、信号で停止すると運転手は常にスマホをチェックしているので、交通事故に巻き込まれる危険性も自動車より高い。渋滞によるストレスで喧嘩や接触事故などのトラブルが多発することも問題になっている。たとえ渋滞に巻き込まれるとしても、インドネシアに慣れていない日本人は自動車での移動が無難なのである。まして本会報の読者は新興国での経験が豊富とはいえ、電電公社やNTTという先進国日本の巨大企業育ちで、仕事で行っていた新興国でもかなりいい生活をしていた人たちだろう。このコラムを読んでから「ちょっとインドネシアでバイクタクシーを試してみよう」などと思わないでほしい。交通渋滞に我慢してでも冷房の効いた自動車で移動してください。身の安全は保証できません。


 

ご寄稿者への感想、意見、感動などございましたら、左のコメントボタンよりご記入いただければ幸いです。